この世界は美しい。
白い紙、白い壁、白い空。何れも見方次第でキャンバスになる。
囚われる意識は仰ぐ程に大きい。描き手が人でなければ尚更だ。
そこは曇天どころか山肌さえも緑に塗り潰す山岳地帯。
つまり鬱蒼とした竹林を掻き分けて開拓した狩猟地だ。
非常に入念な舗装がキャンプ周辺に施されているが、既に道端の竹の子が詰め寄っている。
風変わりなキャンプで面白いものの、竹の侵食を考えれば寿命は短そうだ。
と言う訳で十分に寛ぐとしよう。
竹製のベッドは風通しが良く、向いには軽食が用意されている。
広々とした空間は疲れていなくても休憩に最適だ。
おや、ベースキャンプ特集の気分が抜け切っていないらしい。
昨夜、朧月を観察した高台へ足を運ぶと夜中では解らなかった遠景が見渡せた。
竹林は温暖且つ湿潤な地域に分布する為、小雨の後は竹林から雲が立ち昇る様にも見える。
笹を縫う霞を穿つ山岳が地平線まで点在し、まるで仙人や天狗が岩陰に伺えそうな光景だ。
緑の海原は波音を真似て風の形を伝える。
高台から降り立つと視界は直ぐに竹林で阻まれた。
竹林奥部は狩猟域が非常に限定された状態で公開されたが
理由のひとつとしては遭難防止といったところだろう。
視界の悪い山ほど神隠しに戯れる怪異が住まう場所は無い。
例えば、周囲の竹を生やしたり枯らしたりといった怪奇現象を振り撒きながら歩く幻獣。
ギルドからは雅翁龍と命名された古龍で
危険な竹林に狩人が放り込まれる事になった元凶だ。
蒼角の獣が聳弧ならば、こちらの黒い獣は角端と言ったところか。
どちらも麒麟の一種で配色は五行を示し、黒は水の象徴となる。
水気は木気へ巡る事を考えれば竹を操る能力にも納得がいくものだ。
嘶く姿に通じるものを感じなくもない。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
私は竹林を撮影しに来たのであって神殺しをしに来た訳ではない。
下手に触れればそれこそ神隠しに逢い兼ねんからな。
虫でも見るかの如く一瞥した古龍が去り行く後に高台を仰ぐ。
切り立つ山岳を覆い尽くさんと背を伸ばす竹林。
風が吹けば緑の香る波音を運ぶ。
続きは、また今度な。