この世界は美しい。
洞窟の奥へ僅かに届いた光が土塗れの朱殻を映す。
湿った岩の狭間を茸と共に徘徊する巨躯が居た。
その名も多殻蟹。
時には浜辺を横切る事もあるらしい。
噂よりも随分と小さい気もするが、
友人から譲って貰った多殻蟹の素材と同じ朱殻の様なので、恐らく本物だろう。
まぁ、そんな事はどうでも良い。
今日は潮島の洞窟が撮影地だ。
潮島が発見された当初は跳緋獣の発見や
別の地域で出没し始めた獰竜の被害で洞窟の調査が遅れていた。
火山を中心とした岩地に張り巡らされた洞窟は
地図上では潮島奥地の岩盤から浜辺へと続いている。
岩盤からの経路は崩落で塞がっている事が多い。
あの向こうに洞窟内を揺るがす何かが生息しているのだろうか。
探索が許可されている領域は狭いが
その複雑な立体構造から火山内部の石灰岩層を
地下水が上から下へ溶かしながら形成した洞窟だと推測できる。
鍾乳石は見られないものの
洞窟内部の岩壁は柔らかい曲線の重なりで構成されている。
浜辺から進入して幾らも歩かない内に巨大な縦穴に出くわす。
先日にも少し紹介したな。
今回は降りてみよう。
進入口以外からは光が得られない閉鎖された空間に到着する。
植生も乏しく、背丈の低い草と茸が僅かな光の下で寄り添っているだけだ。
目の端で岩塊が動いた気もしたが、きっと錯覚だろう。
洞窟内部には、以前に此処で狩猟を行ったという狩人が
その過程で遭遇した崩落による縦穴があった。
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暗闇の中に滞る水に菌糸が這う。
僅かな明かりの中で見渡した地下に星空と見紛う光景が広がった。
続きは、また今度な。